寝たきりの3割が「脳卒中」
脳卒中とは、脳の血管が詰まる・破れるといったことで障害される病気の総称です。脳卒中を発症すると、身体機能・言語機能が低下し、後遺症が残ってしまう可能性も高くなります。また場合によっては、命を落としてしまうこともあります。具体的な病名としては、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が挙げられます。
現在、国内で毎年約25万人の方が脳卒中を発症しています。また、国内における死亡原因の第4位であり、寝たきりの原因の約3割を占めています。
脳卒中の多くは、加齢・生活習慣の乱れに伴う動脈硬化を原因として発症します。
脳卒中の種類
脳卒中は、脳・脳血管がどのように障害されたかによって、以下のように分類できます。

脳梗塞
動脈硬化による脳血管の狭窄、血栓の発生により、脳血管が詰まってしまうタイプの脳卒中です。
身体の片側の麻痺(特に手足)、呂律が回らない、物を飲み込めないなどの症状を伴います。
ラクナ梗塞
0.9mm以下の脳の細い血管の壁が厚くなる、壊死することで、血栓が詰まった状態です。画像上で脳梗塞が認められるものの、症状が現れていない無症候性脳梗塞(かくれ脳梗塞)のほとんどを占めます。
アテローム血栓性脳梗塞
脳の太い血管の根元が動脈硬化などによって狭くなり、血栓が詰まった状態です。
心原性脳塞栓症
心房細動をはじめとする心疾患によって血栓が発生し、脳へと飛んで血管を詰まらせた状態です。
脳出血
0.2mm以下の小さな血管において、加齢や生活習慣の乱れを原因とする動脈硬化が進行し、破れてしまいます。重大なリスク因子として、高血圧が挙げられます。
くも膜下出血
脳動脈瘤、あるいは動静脈奇形の破裂によって、脳の表面に出血するタイプの脳卒中です。
脳卒中に前兆や初期症状はある?
脳卒中は、ほとんどの場合、突然起こります。ただし、以下のような初期症状(一過性脳虚血性発作)が現れることもあります。
数分から数十分、遅くとも24時間以内に消失しますが、「治まったから大丈夫」とは考えず、すぐに受診するようにしてください。

- 急な身体の片側の手足のしびれ
- 急な顔の片側のしびれ
- 箸・ペンなどを持てない、落とす、うまく使えない
- けいれん発作
- 激しい頭痛
- 意識の低下・消失
- 呂律が回らない、言葉が出てこない
- 人の言葉が理解できない
- 片目が見えにくくなる、視野が狭くなる
- 吐き気、嘔吐
- グルグルする回転性のめまい
- 立てない、真っすぐ歩けない
脳卒中の初期症状「FAST」について
脳卒中の代表的な初期症状のことを、「FAST(ファスト)」と言います。
Face、Arm、Speech、Timeの頭文字を取ったものです。
Face:顔の麻痺
顔の片側だけしびれる、うまく動かせないなど、顔に現れる初期症状です。
Arm:腕の麻痺
腕に力が入らない、両腕を水平にできない(片方の腕が上がらない、落ちる)など、腕や手に現れる初期症状です。
Speech:言語障害
呂律が回らない、言葉が出てこない(話したいことを話せない)など、言語障害として現れる初期症状です。
Time:発症時刻
こちらは症状ではありませんが、症状が現れた時刻をメモすることを指します。
発症から治療までにかかった時間によって、実施すべき治療法が変わってきます。
医師・看護師・救急隊員などに、発症時刻を伝えてください。
脳卒中の原因
脳梗塞の原因
加齢や生活習慣の乱れによる動脈硬化を主な原因とします。また、心房細動などの不整脈による血栓の発生も、大きなリスク因子となります。
脳出血の原因
加齢や生活習慣の乱れによる動脈硬化を主な原因とします。特に高血圧は、重大なリスク因子となります。
くも膜下出血の原因
脳動脈瘤、動静脈奇形などの破裂を原因とします。高血圧、喫煙、脳卒中の家族歴などが主なリスク因子として挙げられます。
脳卒中の後遺症
脳卒中を発症すると、治療を行い命を救えても、以下のような後遺症が残ってしまうことがあります。
神経障害
神経に障害が残ることで、身体機能が低下します。
具体的には、言語障害や運動障害、感覚障害、嚥下障害、視野障害、排泄障害などが挙げられます。
高次機能障害
言葉を話したり、理解・判断することが難しくなる言語障害、認知障害などを指します。
記憶障害、行為障害もここに含まれます。
感情障害
イライラするようになったり、暴力的になったりと、感情の起伏が激しくなる・性格が変わっってしまう後遺症です。
脳卒中の検査
MRI
脳の構造や血流を詳細に映し出すことができ、特に初期の脳梗塞や微細な異常を発見するのに優れています。MRA(磁気共鳴血管撮影)を併用することで、脳血管の状態や血流の異常も評価可能です。
血液検査
血液検査では、脳卒中のリスク因子である糖尿病、高血圧、脂質異常症の有無を確認します。また、炎症や凝固異常を調べることで、脳卒中の原因解明に役立ちます。
頸動脈エコー
頸動脈エコーでは、首の血管の動脈硬化や血流異常を評価します。動脈硬化の程度や血管の詰まり具合を確認し、脳梗塞リスクを予測します。
神経学的診察
問診や診察で脳卒中に特有の症状を評価します。運動麻痺や感覚障害、言語の異常などを丁寧に確認し、診断の精度を高めます。
脳卒中の治療
脳梗塞の治療
発症後4.5時間以内の超急性期に梗塞を解消できれば、症状の劇的な改善(後遺症が残りにくくなること)が期待できます。
t-PA(血栓を溶かす薬)の注射、血管内治療などが行われます。
脳出血の治療
多くの脳出血の原因となる高血圧に対する降圧剤、出血を止めるための止血剤、脳の圧迫を和らげるための抗浮腫剤などを投与します。
出血量が多い場合には、手術によって血の塊を除去します。
くも膜下出血の治療
破裂した瘤を塞ぐため、手術が必要になります。
開頭し瘤の根元を挟むクリッピング術、瘤の中にコイルを入れて塞ぐ血管内コイル塞栓術があります。
脳卒中の予防
脳卒中を予防するには、日常生活での健康管理が非常に重要です。
以下に主な予防法を挙げます。
血圧の管理
高血圧は脳卒中の最大のリスク要因です。
- 目標値: 140/90 mmHg未満(高血圧の治療中の方は医師に相談)。
- 減塩を心がけ、1日の塩分摂取量を6g未満に抑える。
- 定期的に血圧を測定し、異常があれば早めに医療機関へ相談。
健康的な食生活
- 野菜、果物、魚、全粒穀物を積極的に摂る。
- 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸(バター、揚げ物など)の摂取を控える。
- アルコールは適量を守る(日本酒なら1合、ビールなら500ml以内が目安)。
適度な運動
- 週に3~5日、1日30分程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)を行う。
- 長時間の座り仕事の場合、1時間ごとに立ち上がり軽いストレッチをする。
禁煙
- タバコは血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。
- 禁煙を始めることでリスクが大幅に減少します。
- 医療機関の禁煙外来を利用するのも効果的です。
糖尿病と脂質異常症の管理
- 血糖値を定期的に測定し、正常範囲を維持する。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を適切に管理する。
ストレス管理と睡眠
- ストレスを溜めないよう、リラックスできる時間を確保する。
- 睡眠不足や質の悪い睡眠は血圧上昇の原因となるため、7~8時間の良質な睡眠を心がける。
定期健診の受診
- 脳卒中のリスクを早期に発見するため、健康診断を定期的に受ける。
- 頸動脈エコーや脳ドックを定期的に受けましょう。
家族の病歴を知る
- 遺伝的要因もリスクに影響するため、家族に脳卒中の経験者がいる場合は特に注意する。
よくある質問
脳卒中の生存率はどれくらいですか?
生存率は発症のタイプや治療開始のタイミングによりますが、以下の目安があります。
- 脳梗塞: 初期治療を早く開始すれば、60~80%の方が命を取り留めることができます。
- 脳出血: 生存率は約50~60%ですが、重篤な場合はさらに低下します。
- くも膜下出血: 一般的に最も致死率が高く、約40~50%が初期段階で命を落とすと言われています。
いずれの場合も早期治療が重要で、生存率を高めるだけでなく、後遺症を最小限に抑えることにつながります。
脳梗塞は治りますか?
脳梗塞は早期に適切な治療を受けることで、完全回復するケースもありますが、以下の点が影響します。
- 回復の程度: 発症時のダメージの範囲や部位によります。
- 治療開始のタイミング: 発症後4.5時間以内に血栓溶解療法(tPA治療)やカテーテル治療を受けた場合、良好な結果が期待できます。
- リハビリ: 適切なリハビリを続けることで、機能回復や生活の質を向上させることが可能です。
完全に「治る」場合もありますが、多くの場合、軽度から重度の後遺症が残ることがあり、早期診断と予防が鍵となります。
脳出血をしても後遺症なく帰れますか?
2023年の脳卒中データバンクを見ると、退院後すぐ自宅に戻れた人の割合は、約28%です。一方で、リハビリを目的とした病院へと転院した方も52%にのぼります。後遺症なく自宅に帰れる割合は、高いとは言えません。脳卒中を予防することが、いかに健康と平穏な毎日を守る上で重要であるかが分かります。
このページ内でもご紹介している通り、若く健康なうちから、脳卒中や生活習慣病の予防に取り組むことが大切です。
出典:脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握(日本脳卒中データバンク)」報告書 2023 年